めまい

症例:寝返りを打つと起こる回転性のめまい

【臨床的特徴】

 60代男性。約2か月前より連日起こる回転性のめまいに悩まされている。めまいは決まって就寝時、寝返りを打つことで起こる。数秒で治まるのだが眼の前がぐるぐると回るのでとても不安な気持ちになる。医療機関でCTなどの検査を受けたが脳や血管に異常はなく、内耳性のめまいではないかと言われている。めまいに対する体操の仕方を教わり行ってみたが症状に変化はない。

【介入と結果】

 施術は上部頸椎と胸椎を中心に行われた。施術後数日間、めまいは一度も起こることがなかった。その数日後、寝返りを打つことで再び回転性のめまいが起こることもあったが、2回目の施術以降はそのようなこともなく数週間経過している。

【考察】

 頭部の位置情報を感知するのは内耳にある三半規管ですが、その情報を統合するのは脳幹にある前庭神経核と呼ばれる部分です。
上部頸椎は神経学的に脳幹とのつながりが強い部分です。めまいなどの場合、カイロプラクティックでは上部頸椎機能障害による神経伝達障害を疑います(「機能性のめまい」は、古くからカイロプラクティックの適応症です)。

ですが、カイロプラクティックは症状を"やっつけたり"抑え込むのではないことを強調したいと思います。カイロプラクティックは神経伝達を妨げている脊椎分節の機能障害(いわゆるズレ)を取り除き、からだ本来の生理学的状態を取り戻そうというものです。
人によってはその過程で多少なりとも症状がぶり返すような"揺らぎ"のような現象を経験するかもしれませんが心配はいりません。そのような現象も神経筋骨格の状態が正し方向に向かっていれば段々と消失していくはずです。




□■□めまいについて■□■

 心臓から送り出された血液が体を巡り、再び心臓に戻ってくるのと同じように、身体の平衡機能を司る神経の流れも、体を"循環"しています。

 身体の平衡機能を正しく保つには、視覚、半規管、骨格筋からの正しい感覚情報が中枢に正しく伝わることが必要なのですが、末梢から送られてくるこれら感覚情報は、脳幹にある前庭神経核という部分で統合されて、大脳・小脳、脊髄に伝えられます。大脳・小脳、脊髄は、運動神経を介して眼球運動を含めた体中の骨格筋の緊張を調節しています。

そしてこれにより得られた身体の位置情報は、再び中枢神経に送られて前庭神経核で処理されて…と、このような中枢と末梢間での絶え間ないフィードバックが正確に行われることにより、そのとき、そのときの環境変化に応じた最良の姿位を保つことができます。

 平衡機能の障害である「めまい」は、このフィードバック経路のどこかに異常があると起こります。

img_10

危険な病気でないのなら、もっと前向きに!

 「めまい」は、脳の血管障害、感染症、腫瘍などの病気、末梢では内耳の炎症などが原因で起こることがありますが、このようなはっきりとした疾患が背景になくても「ただ、何となく神経のはたらきが上手くいっていない」というときにも起こることがあります。
前者を器質的、後者を機能的な問題というのですが、病院でいろいろな検査を受けても異常がないと言われ、それでも「めまい」はある、というときは神経の機能的な問題を考えるべきだと思います。

 病院の検査で異常が見つからないと、それを不安に感じる人もいますが、病院の検査で脳の血管障害など危険な病気の可能性が除外されたのなら、むしろ安心しても良いということであり、もっと前向きに考えても良いのではないかと思います。
なぜなら、神経の機能的な問題で起こる「めまい」は、いわば身体がつくりだしている異常な生理学的状態ですから、それをつくり出している"身体の状態"が変わりさえすれば改善に向かっていくはずだからです(「めまい」を"やっつける"のではないのです)。


img_10

▲中枢と末梢、それは本社と営業所の関係に似ています。▲



img_10

▲本社は営業所に指示を送りますが、営業所からの営業報告が正しくないと、次に送られてくる本社からの指示も正しいものにはなりません。



 カイロプラクティックでは、「病気は身体がある形態的変化を受けて被る状態」という捉え方をします。もう少し具体的に言いますと、脊椎分節の"ズレ"は、身体組織の活動をコントロール、統合している脊髄と脊髄神経の機能に干渉し、身体の異常な生理学的状態をつくりだす原因になると考えているのです。
 カイロプラクティックの目的は、脊柱の"ズレ"を修正することで神経干渉を取り除き、神経機能を回復させ、延いては中枢と末梢間でのフィードバック機構をスムーズにさせることにあります。



カイロプラクティックのアプローチは理に適ったものです。

 中枢の神経細胞が正常に活動するために必要なのは、末梢神経から送られてくる「適刺激」と血液から送られてくる「グルコース」です。正常な脊柱運動から中枢へ送られてくる感覚情報という「適刺激」は、前庭神経核を含めた脳全体の機能が正常に活動するのに不可欠なものです。

 そもそも、身体の平衡機能を司る前庭神経系が、重力に抗して体を起こし、直立二足歩行という不安定な姿勢の中で発達してきた系であることを考えると、それは至極当然のことと言えます。平衡機能の障害である「めまい」に対して、筋骨格系に注目することはとても理に適ったものなのです。 とくに上部頚椎は前庭神経核との神経のつながりが強力で、回転性「めまい」のときの施術を重要なものにしています。

img_10

 「めまい」は通常、回転性めまいvertigo のことを指しますが、フワフワする浮遊性のめまいdizziness も「めまい」と表現されることがあります。フワフワとする浮遊性の「めまい」は血圧の調節が上手くできないときに起こることがあります。

 血管の内径を調節して血圧を調節しているのは自律神経ですが、カイロプラクティックのような筋骨格系へのアプローチが自律神経の活動に良い影響を与えることは体性自律神経反射としてよく知られています。
神経細胞が正常にはたらくために必要なのは「適刺激」のほかに「グルコース」が必要でしたから、脳に向かう血圧の調節が正常であることは、とても大切なことなのです。

img_10

▲自律神経の乱れは、中枢神経に向かう血流の偏りを生じさせます。




身体全体の回復力を損ねないようにすることも大切です。

 「めまい」は、部分的な見方をすれば、内耳とそれに関わる脳幹の一部分の障害により起こるものとすることができますが、実際には大脳や小脳、脳幹や脊髄などの神経系が、「お前がだめなら、俺が代わりにやってやる」といった具合に、互いにその機能を補いながら身体の平衡調節を正常に機能させているのです。これを神経の可塑性といいます。
このような神経の特異性は、部分だけでなく身体全体の回復力を高めることの大切さを教えてくれます。
 ですから、無理なダイエット、ビタミン不足、過度の飲酒、喫煙、化学的ストレス(薬など)、精神的ストレス、など、心当たりのある人は、生活習慣を見直すだけでも、ずいぶんと違ってくるはずです。ただし、むちうち等の外傷も「めまい」を引き起こすきっかけになるので、過去の外傷歴は十分考慮する必要があります。

 施術の直後に「めまい」が止んだり、いつの間にか無くなっていた、ということは臨床でもしばしば見られることです(もともとカイロプラクティックはその歴史の中で、腰痛などの筋骨格の症状よりも内臓障害など自律神経に関係する障害を多く扱ってきました)。
機能的な問題で起こる「めまい」に対して、カイロプラクティックのアプローチは良い反応を期待していいはずです。
 ですが、カイロプラクティックは「めまい」を"やっつける"のではないということを忘れないでください。カイロプラクティックのケアは、体の回復力(自然治癒力、恒常性、言い方は色々ありますが)を引き出すことを目的としたものですから、引き出すべき回復力が乏しかったら、なかなか成果上がらないこともあるからです。

 元来身体に備わっている、回復力、自然治癒力、恒常性の力は素晴らしいものです。その恩恵を最大限に活かすためにも生活習慣を見直して「養生」することはとても大切なことなのです。 急にやることは誰にとっても難しいことですが、身体の調子が上がってくれば前向きになることもできるはずです。