坐骨神経痛に似た痛み

 腰痛や殿部・大腿・下腿の痛みは、「椎間板ヘルニア」でなくても起こります。



症例1

【臨床的特長】

 40代の女性が殿部から太もも後ろ、そしてふくらはぎへの痛みを訴えている。5年前から殿部に痛みを感じ始め医療機関を受診したところ、画像検査で腰部の椎間板ヘルニア と診断された。その間、痛み止めで対症していたがいっこうに良くならず、4ヶ月前からは太ももの後ろやふくらはぎにも痛みが起こり始めた。医療機関では椎間板ヘルニアの手術も考慮していかなければならないと言われている。
 今までに腰痛を経験したことはなく、下肢に怪我をした覚えもない。前屈みになると痛みが特にひどくなるわけではないが、立ったり歩いたりしているとき、足首が伸びないためふくらはぎが痛い。また、痛い方を下にして寝ると殿部が圧迫されて辛く感じる。

【介入と結果】

 下肢の皮膚感覚や腱反射、筋肉検査は正常であった。その他の検査でも椎間板ヘルニアで起こる坐骨神経症状は確認できなかった。ふくらはぎと太ももの筋肉の顕著な短縮(柔軟性の低下)と仙腸関節の圧痛が確認された。1回目の施術で痛みは顕著な軽減を示し、3回目の来院では痛みはほとんど消失した。

【考察】

 この症例では、仙腸関節からの痛み、殿部の筋肉からの痛みが太ももやふくらはぎに放散する関連痛に加え、太もも・ふくらはぎの筋肉そのものの柔軟性の低下からくる痛みの重複と考えられます。 画像検査で椎間板ヘルニアは確認できたのかもしれませんが、椎間板ヘルニアのある人全てが坐骨神経痛を起こすわけではありません(確かに発症当時は椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛はあったのかもしれませんが)。椎間板ヘルニアがあっても腰痛や坐骨神経痛の無い人は多く知られています。腰椎や仙腸関節、殿部の筋肉からの関連痛は、坐骨神経痛 と似たような痛みの走行を示すため、坐骨神経痛との鑑別が必要になってきます。

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①椎間板ヘルニアで起こる坐骨神経痛
②殿部筋群からの関連痛
③仙腸関節からの関連痛

 仙腸関節の機能を正しく保つことは、仙腸関節由来の痛みの防止だけでなく、椎間板にかかる負担も軽減しますから、とても大切なことです。



症例2

【臨床的特長】

 40代の女性が、10日前より始まった左殿部の痛みと大腿前面から膝内側に広がる痛み、感覚鈍麻を訴えている。これまでに医療機関でMRI検査を受けたが椎間板ヘルニアなどの坐骨神経痛の原因となるようなものは確認されなかった。痛みは、車のシートに座ると増悪するが立位でいるときはあまり感じない。パート先で重い荷物を持って腰を傷めたことがきっかけだったかもしれない。

【介入と結果】

 検査で坐骨神経痛の兆候や、痛みを訴えている膝関節に異常は見られなかった。仙腸関節と腰椎分節に可動制限(いわゆるズレ)が見つかった。
施術は仙腸関節に対して行われた。1回目の施術で椅子に座ったときの殿部痛は軽減し、翌日には消失した。2回目の施術で膝関節内側の痛みは消失した。

【考察】

 骨盤や腰椎のズレは、殿部や大腿後面だけでなく、大腿の前面や膝関節の辺りにも痛みを放散させることがあります。これを関連痛というのですが、このような場合、痛みを起こしている部分は、たとえその部分に異常がなくても、触れると痛みを感じることもあります。
 カイロプラクティックのケアは、このような原因のはっきりしない下肢への放散痛の軽減の助けになることがあります。



症例3

【臨床的特徴】

 40代の男性が右殿部の痛みと右下腿の突っ張るような感覚過敏、そして土踏まずと拇趾の痺れるような感覚鈍麻を訴えている。座っている時間が長くなると殿部の痛みは増悪する。夜間、足の痺れで目が覚めることもある。以前より慢性的に腰痛はあったが、これほど辛いのは初めて。

 病院でMRI検査を受けたが異常は見つからず痛み止めだけを処方された。数年前、階段から落ちたときに強く右足足底を着いてしまったことがある。痛みのため、しばらくの間まともに体を動かすことが出来ないことがあった。

【介入と結果】

 坐骨神経痛の検査で異常は見られなかった。腰椎と仙腸関節に可動制限が認められた。
1~2回の施術で殿部痛は軽減し、夜間、足の痺れで覚醒することも無くなった。4~5回の施術以降、脛と足底の感覚異常はほとんど感じることが無くなった。

【考察】

 仙腸関節の機能障害は、殿部だけでなく大腿や下腿に痛みを放散させることがあります。また、骨盤の歪みから発生した二次的な腰椎のズレは下肢に向かう神経を圧迫して足部の感覚異常の原因になることがあります。

 この症例では腰椎骨盤の不安定さが顕著でしたが、過去の外傷は数年後の様々な身体的不調と関係しているかもしれません。このような場合は、出てくる症状を”やっつける”のではなく、損傷した筋や関節の再生を”育てる”ように自己管理する意識も必要です。

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症例4

【臨床的特徴】

 30代男性が3日前より始まった骨盤左側、腸骨稜付近の痛みを訴えている。腰を屈めると鋭い痛みが走る。特に靴下を履くような腰を屈めて膝を持ち上げる動作が最も辛い。痛みは段々とひどくなっている。

【介入と結果】

 椎間板ヘルニアで起こる神経学的兆候は見られなかった。仙腸関節へのストレス検査で痛みを誘発した。左仙腸関節の可動制限が確認できた。施術は仙腸関節に対して行われた。施術後、痛みは顕著に軽減した。2回目の施術後は靴下を履く動作も痛みなく行えるようになった。

【考察】

 腸腰靭帯と腰仙靭帯は腰椎と腸骨稜に付着しており、腰椎や仙腸関節の安定性に関与しています。仙腸関節のズレなどの力学的なストレスが加わることでこれら靭帯が損傷すると、殿部外側や鼠径部に痛みを放散することがあります。

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症例5

【臨床的特徴】

 40代女性が5~6年前から始まった殿部の疼くような痛みを訴えている。痛みは、大腿や下腿に放散することもある。立っていても座っていても常に痛みがあり、床に座っているときなどは頻繁に足を組み替えて体重移動をしていないと耐えることができない。とくに起床時は辛く、洗面台の前で腰を屈めることは大変困難である。

【介入と結果】

 腰仙部に可動制限が確認された。 施術は腰仙部に対して行われた。1回目の施術で大腿や下腿の痛みは起こらなくなった。2回目の施術では殿部の痛みも消失し、起床時、洗面台で腰を屈める動作も痛みなく行えるようになった。

【考察】

 腰仙部は腰椎の中で最も力学的ストレスの加わる部分であり、ここでの脊椎分節の機能障害(いわゆるズレ)は、神経を圧迫して下肢に痛みを放散させることがあります。

 脊椎分節の退行変性(いわゆる変形症)は、機能障害から始まります。 ストレッチや正しい座り方など、脊椎分節の機能障害を再発させないための自己管理の仕方を学ぶ事も大切です。

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