坐骨神経痛

大切なのは、痛みを“やっつける”のではなく、痛みの原因になっている脊椎分節の機能障害を修正することと、日常生活で傷口を広げるような間違った身体の使い方を“しない”ということです。

11ヶ月間続く坐骨神経痛

~ 椎間板ヘルニアから起こる坐骨神経痛 ~


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【臨床的特徴】

 60代の男性が殿部から太腿後ろ、及びふくらはぎに放散する痛みを訴えている。男性は、約11ヶ月前に自宅で不意に腰を屈めたままの状態で段差から着地した際、腰部に鋭い痛みが走るのを感じた。痛みは、日ごとに殿部から大腿後面に放散する性質のものに変化していった。医療機関では椎間板ヘルニアと診断され、牽引治療を数回受けることで症状は治ったが、その後再び殿部~大腿後ろの放散痛が始まった。再度牽引治療を受けているが、前回のように痛みが治まることも軽減することもない。市販の鎮痛薬も痛みを和らげない。
痛みは起床時に最も強く、顔を洗う時の腰を屈める姿勢、靴下を履く動作が痛みのため困難である。最近では、ふくらはぎにまで痛みが放散している。

【介入と結果】

 腰椎前弯と胸椎後弯が亢進してみえる。腰を屈める動作や下肢を挙上する動作で下肢の痛みは増悪する。施術は骨盤帯を中心に行われた。1回目の来院後、起床時の痛みはそれほど変化ないが、一日を通しての痛みの程度は軽減したように感じる。ふくらはぎの痛みは消失した。 3回目の来院では、殿部と大腿の痛みは消失しており、起床時の痛みも無くなった。洗顔や、靴下を履くときの動作も痛みなく行える。

【考察】

 骨盤は脊柱の土台のようなものです。その土台である骨盤を構成する仙腸関節が歪んだままの状態でこわばると、腰椎の椎間板には無理な捻れや剪断力、伸長力が加わるようになります。このような力学的ストレスが椎間板に断続的に加わると、椎間板には小さな断裂が繰り返し起き、そして膨隆するようになり、やがて神経根を機械的、または化学的に刺激して坐骨神経痛を惹起するようになります。
 力学的なストレスが原因で起こる椎間板ヘルニアは、いうなれば"傷口が開いた状態"です。ですから、傷口が閉じるよう、少なくともそれ以上傷口が広がらないようケアすることは、椎間板障害にとってとても理にかなったことといえます。

 今回行ったことは、骨盤帯を中心とした脊柱の調整と日常生活における姿勢へのアドバイス、そしてごくごく簡単なエクササイズだけです。 その中でも、傷口を広げるような姿勢(腰を丸めて座るなど)の習慣を改め、椎間板の治癒を促すような正しい姿勢を実践することは急性期の椎間板障害にはとても重要なことです。たとえ、カイロプラクティックで正しい状態に骨盤や背骨を調整しても、日常生活で傷口が広がるような姿勢をしていたのでは、成果が上がらなくて当然だからです。

 今回、比較的早い段階で症状が改善して行ったのは、クライアントが、傷口を広げるような姿勢の問題を理解し、自らが治癒を促すような正しいし姿勢を積極的に実践したことにあると思います。 身体は傷めた組織を自己修復するようにできていますから、何か特別なことをするよりも、「傷口が広がるようなことをしない」ということを実践することの方が身体にとっては大きな助けになることがあります。「利は元にあり」です。
 症状が治まった後は、椎間板の柔軟性を取り戻し、脊椎分節の機能を改善し、再発の防止と身体の健康の「より良い状態」を目指します。



症例:坐骨神経痛(梨状筋症候群)もご覧ください。

椎間板膨隆からの坐骨神経痛

【臨床的特徴】

 40代男性が左大腿後面から腓腹にかけての痛みを訴えている。痛みは2~3カ月前より殿部に始まり、日毎に大腿後ろ、そして腓腹へと下がっていった。慢性的に腰痛を抱えていたが、今までだましだましにやって来た。15年前に椎間板ヘルニアを患ったが、特に治療も受けず症状は自然緩解した。
 現在は一日を通して座っている仕事であり、座っている時間が長くなると左大腿後面が椅子の座面に当たって痛くなる。座っているよりも立っていることの方が楽である。 医療機関を受診したが、レントゲンやMRIで椎間板ヘルニアは確認されなかった。

【介入と結果】

 腰椎前弯は減少している。第5腰椎皮膚上に浮腫感があり、押圧により強い痛みを生じる。 下肢筋力は正常であったが、アキレス腱反射は左で減弱している。左の下肢挙上検査では腓腹を含む下肢に痛みが放散する。

 施術は腰椎・骨盤に対して行われた。施術後、腓腹の痛みと腰椎の圧痛はなくなった。
3回目の施術の数日後には大腿後面の痛みが随分と和らいだせいか殿部側面の痛みが気になるようになった。
4回目の施術後は、椅子に長時間座っていても大腿後面が痛くなることが無くなった。殿部側面の痛みも消失している。

【考察】

 この症例では、第5腰椎椎間板障害からの坐骨神経痛が疑われます。いわゆる椎間板ヘルニアは、線維輪の断裂が中心と外側で繋がり髄核が外に脱出するタイプと線維輪の断裂は繋がらず髄核が偏り線維輪が膨隆するタイプに大きく分けられます。
この症例では後者が考えられますが、後者では椎間板内圧が高まった時だけ(腰を屈めたり、椅子に長時間座ったりなど)、椎間板は大きく膨隆するので、MRIでははっきりと映らなかったのかもしれません。

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 椎間板の膨隆は神経根を圧迫して坐骨神経痛を引き起こしますが、この膨隆が大きくなるにつれて痛みは殿部~大腿~腓腹~足部へと下降していくことが知られています(赤矢印)。回復の時は逆の経過をたどります(青矢印)。
下肢の痛みが無くなるにつれ、むしろ殿部や腰部の痛みが気になることがありますが、痛みの部位が身体の中心に向かって上行するのは、椎間板の膨隆が軽減して神経圧迫が和らいだ時に起こるサインですから心配いりません。

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 今回、順調に改善して行くことができたのは、クライアントが椎間板の機能を理解し、仕事中の正しい座り方や自宅でのエクササイズなどを率先して行ったためだす。
 椅子に長時間座り続けることは、立っていることよりも椎間板に大きなストレスが加わります。ですから、仮に施術で脊柱を良い状態にしたとしても、一日の大半を占める仕事での姿勢が正しくなければ、椎間板の傷口は広がる一方であることは明白なことです。

 繰り返す腰痛や坐骨神経痛などの慢性的な機能障害の改善には受動的な施術だけでなく、椎間板の傷口を広げる原因となっている好ましくない生活習慣(間違った座り方、立ち方、体の休め方など)を“しない”ということも同時に始めていくべきです。
 症状が治まった後は、再発防止のための脊柱分節機能のリハビリテーションを行います。

症例:坐骨神経痛(梨状筋症候群)もご覧ください。



症例3:歩くときに起こる坐骨神経痛

【臨床的特徴】

 50代男性が左殿部~大腿後ろ、及び腓腹と踵の痛みを訴えている。約2カ月前から腰痛が始まり、その後痛みは段々と殿部、下肢へと広がっていった。それに伴い腰痛は感じなくなった。 医療機関でMRI検査を受け椎間板ヘルニアと診断された。牽引治療を受けたが痛みが増悪したため現在は鎮痛剤のみで対症している。

 仕事は一日を通して立ったり屈んだりする動作が多い。 始めの頃は座位で痛みが増悪したが、最近ではそのようなことはなく、主に立っているとき、あるいは歩いているときに増悪する。痛みのため、壁に手を着きもたれかかるようにして休まなければならないこともある。下肢の痛みは起床時に強い。また、終業に近づく夕方にも辛くなる。

【介入と結果】

 クライアントは左足を引きずりながら歩いている。立位では体幹の右への傾斜を示している。 左足部の感覚が低下し、尖ったものでつつかれること、丸いもので触れられることを識別することができない。足指の筋力は低下を示している。左殿部がやや委縮して見える。 腰部に浮腫や圧痛は確認できなかった。仙腸関節の可動制限とそれに伴う下肢長差(左右の足の長さの違い)が確認できた。施術は主に仙腸関節に対して行われた。

 施術後の数日間は腓腹と大腿後ろの痛みはほとんど感じることが無くなった。しかし、仕事で無理をしたせいか腓腹に再び痛みが生じるようになったが、以前のように深く耐えがたい痛みではなく違和感があるといった程度のものである。
 2~3回の来院までに立位での体幹の右傾斜は見られなくなった。クライアントは足を引きずらずに歩くことができる。足部の感覚低下や筋力低下は十分ではないが改善の傾向にある。先の尖ったものと丸いものを識別することができる。 クライアントは、一日を通して随分と痛みが軽減していることを実感している。起床時の痛みも起こらなくなった。

【考察】

 立っているとき、または歩いているときに増悪する坐骨神経痛は、仙腸関節の機能障害(ズレ)が大きく影響していることがあります。  仙腸関節が"ズレる"と左右の足の長さに差異が生じるようになります。これは、機能的な下肢長差といって実際に骨の長さが左右で違うということではありません。 骨盤は脊柱の土台のようなものですから、足の長さの違いにより生じる骨盤の傾きは、正常な脊柱バランスを乱し、損傷した椎間板組織の自然治癒を妨げる要因になります。 仙腸関節の機能障害を修正して下肢の長さを揃えることはとても重要なことです。


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 仙腸関節の機能障害を修正して脊柱の力学的異常を取り除いた後は、自然治癒を促すためにもクライアント自らが適切に自己管理していくことが必要です。 今回、比較的早い段階で症状の軽減がみられたのは、クライアントが椎間板ヘルニアの発症機序を理解し、積極的に日常生活での身体の使い方、治癒を促す休息の仕方を率先して行ったためだと思います。
適切に自己管理が行われてさえいれば、症状はさらに改善して行くはずです。何も症状が無くなるまで頻繁に施術を受けに通う必要はありません。

 椎間板ヘルニアは、ある日突然なるのではなく、脊柱の力学的異常を背景に時間をかけてつくられるモノです。また、椎間板が損傷することにより正常な平衡状態を失った脊椎分節は、退行変性(骨組織などの変形)を招き、椎間板ヘルニアとは異なる坐骨神経痛(脊柱管狭窄症など)を引き起こすことがあります。

 神経筋骨格の問題は時間軸で捉えてケアすることが大切です。ただ単に痛みがあるか無いかで判断せず、間隔を空けながら脊柱安定性の機能を回復するためのリハビリテーション的ケアをおすすめしています。

4~5年前から始まった坐骨神経痛、ブロック注射が効かない

【臨床的特徴】

 50代女性が4~5年前から始まった腰部から右殿部~大腿後面~腓腹にかけての痛み、及び足指のしびれを訴えている。痛みは常にあるわけではなく、座位から立位など、ふとした動作で生じる。腰部で神経が引っ掛かっているような感じがする。起床時はとくに痛みが強い。
 痛みが起こる度に整形外科でブロック注射を受けているが、最近ではブロック注射を受けても痛みが治まらなくなった。最初の頃はブロック注射を受けることで即座に痛みは消失したのだが。整形外科では、椎間板ヘルニアっぽくはないね、と言われた。

【介入と結果】

 立位にて左への体幹の傾斜が見られる。腰部を屈曲することで顕著な痛みの増悪は見られない。右足部で深部腱反射の低下が見られた。仙腸関節と腰椎に機能障害(ズレ)が確認できた。
 2回までの施術で、腓腹の痛みと足指のしびれは消失した。殿部、大腿の痛みは頻度や強さが顕著に軽減した。起床時の痛みはほとんど気にならなくなった。最初の痛みを10とすれば、現在の痛みは1である。

【考察】

 痛みのある下肢から反対側への体幹の傾斜は、椎間板ヘルニアで見られる逃避傾斜としてよく知られています。ですが、この症例ではクライアントは腰部の屈曲や座位で顕著な痛みの増悪を示していませんでした(椎間板ヘルニアでは座位で痛みを増悪し、腰部の屈曲が著しく制限されるはずです)。

 この症例では椎間板の退行変性が疑われます。椎間板は70~90%の含水量がありますが、加齢に伴い椎間板の含水量は減少します。含水量の減少した椎間板は偏平になり外側にせり出して脊髄神経を圧迫することがあります。
 椎間板ヘルニア、椎間板の退行変性、いずれにせよ、それらは脊椎分節のズレから始まります。脊椎分節のズレは椎間板を歪めて椎間板を摩耗させます。

 ブロック注射には痛みの神経を麻痺させる鎮痛効果は期待できるかもしれませんが、脊椎分節のズレまでは修正できないはずです。対症療法を否定するわけではありませんが、腰痛からの改善を、ただ単に痛みが有るか無いで判断するのではなく、その中間のグレーゾーン、すなわち脊椎分節の安定性にも目を向けることが大切です。