五十肩 -石灰性腱炎-

深いところから起こる耐え難い肩関節の痛み


【臨床的特長】

 60代の女性が右肩の痛みを訴えている。痛みは、肩関節の深い部分から響いてくるような性質のものであり、どのような肩の動きであっても痛みを増悪する。痛みのため、日常生活のあらゆる動作が制限されており、とくに着衣の際は腕を後ろに回すことができないため大変不自由している。
 約半年前から、肩の疼きや動きの悪さは多少なりとも感じていたが、時間の経過とともに状態は悪くなっていった。医療機関では「五十肩」と診断され、肩関節可動域維持のためのリハビリテーションを受けているが、痛みの程度は変わらない。特に、ここ2、3日は自発痛が耐え難いほどまでに増悪している。
 安静にしていても痛みが治まらないため、睡眠も妨げられている。市販の痛み止めは効かないが、わきの下にクッションを挟めると痛みは少し和らぐ。



【介入と結果】

 クライアントは痛む側の肩を抱えるように背中を丸めている。
 肩関節の屈曲、伸展、及び外転では30度以下で痛みが起こる。肩関節周囲の筋萎縮は確認されない。胸椎の後弯は亢進しており、柔軟性の低下が確認できた。頚椎は前方に傾き、動かすと頚椎の下の方に痛みが走る。

 施術は頚椎、胸椎、骨盤、そして肩関節に対して行われた。術後、右肩の自発痛は和らぎ、肩関節可動域は約60度に改善した。
2回目の施術では肩関節の自発痛は消失した。3回目の来院は、1週間の間隔を置いたが、その間自発痛が起こることはなかった。肩関節を動かすと痛みは起こるが、日常生活での痛みは和らいでいる。肩関節の可動域も改善の傾向にあり、屈曲90度、外転70度であった。



【考察】

 本症例における右肩の痛みは、発症機序からも「石灰性腱炎」が疑われます。「石灰性腱炎」は、漠然とした肩の不快感で始まり、その後自発痛を伴う激しい痛みに移行して行くことが知られています。「石灰性腱炎」は肩関節の腱に慢性的な外力が加わることで腱に変性が起こり、カルシウム結晶が沈着することで発症すると考えられています。

 クライアントは来院時、背中と肩を丸めた姿勢をとっていました。このような姿勢は、肩関節の腱に無理な張力が発生するため、長期的には腱の微小断裂を繰り返すこととなり、腱の変性を引き起こすきっかけになります(重い物を持たなくとも、「腕」そのものが結構重いのです)。

 五十肩のような肩関節の障害が、長い時間をかけて”つくられて”きたものと考えると、それ以上に状態を悪い方向に進めないためにも、脊柱を中心とした姿勢に注目してケアすることは理に適っていると言えます。
 また、受動的に施術を受けるだけでなく、肩関節にかかる負担を軽くするような脊柱の姿勢を理解して、クライアント自らが日常生活の動作を工夫して行うことは、状態の回復だけでなく、再発防止や予防の助けにもなります。